仲條さんはこれまでを回顧した作品集の出版を渋った。版元への迷惑を理由にしたが、彼自身が過去に掬われるのを嫌ったのかもしれない。出版社ADPの久保田啓子さんがうまく説得して編集が始まり、葛西薫さんと僕が編集委員、デザインの実務は僕が担った。僕はこの恐ろしいような作業の進め方がわからず、しばしば放置して時間が流れた。「俺は本が出来上がったら見る」との初めの言葉通り仲條さんは途中を見なかったが、たまに電話をくれた。「サッとやっちゃって」「70ページくらいの冊子でいいよ」「好きに切り刻んで君の作品にして頂戴」「偉そうな本にはするなよ」「ただ順番に並べればいいから」「変なのばっかり選ぶなよ」など。「この本が出たら終わっちゃう感じがするから、ゆっくりでいいよ」とも。
作品の構成は演出を抑えて年代順とした。表紙は様々な時代の仲條作品で包んだ。函のおもて面には1973年の個展でのハートをモチーフにした一点を選んだ。
特別賞
服部一成
仲條 NAKAJO




服部一成 Kazunari Hattori
1964年東京生まれ。1988年東京芸術大学美術学部デザイン科卒業、ライトパブリシテイ入社。2001年よりフリーランス。主な仕事に、「キユーピーハーフ」の広告、雑誌『流行通信』『here and there』『真夜中』のアートディレクション、エルメスのイベント「petit hのオブジェたち」の会場デザインや「夢のかたち Hermès Bespoke Objects」のグラフィック、「三菱一号館美術館」「新潟市美術館」「弘前れんが倉庫美術館」のVI計画、「隈研吾展 新しい公共性をつくるためのネコの5原則」「声ノマ 全身詩人、吉増剛造展」などの展覧会のポスター・告知物・図録、『プチ・ロワイヤル仏和辞典』などのブックデザインがある。毎日デザイン賞、亀倉雄策賞、東京ADC賞、東京TDCグランプリなどを受賞。