これは人の手によってデザインされた本ではありません。人工知能を組み込んだカスタムコードのリーディング・マシンによって自律的に生成されたものです。
私たちのリーディング・マシンは、コンピュータビジョンと光学文字認識を使って作業を開始します。本を開いてデュアル・カメラの下に置くと、マシンがテキストを識別します。マシンは次に機械学習と自然言語処理を駆使してページ上の短い詩的な言葉の組合せを選んで保存し、同時に他の文字をデジタル処理で消去します。続いてグーグル・イメージ・アーカイブでイラストレーションを検索し、残った言葉の意味をもとにページを「装飾」します。
本の全ページを読み取り、解釈し、装飾すると、システムがインターネット印刷サービスを使って自動的に結果をパブリッシング。完成した本は最終的に「ノンヒューマン書籍ライブラリー(Library of Nonhuman Books)」に追加されます。マシンが「読み取り」を始めた瞬間から、プリント・オンデマンド・サービスで本が送信されるまで、人間の介入を受けることなく自動アートシステムが作業を進めるわけです。
このマシンは、どんな紙の本からでもユニークな「装飾スクリプト」を様々に創り出すことができます。それらは、元の本の中にずっとありながら、その瞬間まで隠れていた新しい意味を引き出したものです。
本が言葉の群れに姿を変えるとき、このプロジェクトは、人間と機械の世界の間のどこかにある新しい身体を本が見つけられるように手助けします。これは、人間以外の知能に読み取りを委ねるようになりつつある我々のポスト文字社会に向けた出版実験なのです。
この度は名誉ある東京TDC賞をいただき、国際的な舞台で同業のみなさまに私たちの作品をご覧いただくまたとない機会になりました。今後も本の未来を一緒に描き続けていくことを願っています。
RGB賞
Karen ann Donnachie + Andy Simionato
The Library of Nonhuman Books



Karen ann Donnachie(カレン・アン・ドナチェ)とAndy Simionato(アンディ・シミオナト)は、ヒューマン・マシンによるマークメイキングとタイポグラフィの分野で活動。2000年代初めから多方面のスタジオ活動の傍ら、アート分野の実験的定期刊行物『This is a Magazine (about nothing)』を発行し、賞を獲得。さらにその後、印刷版の『Automatic Activity Books』を出版した。彼らの作品はミラノ・デザイン・トリエンナーレ(イタリア)を含め国際的に展示され、「Princeton Architectural Press」、「Come Together: The Rise of Cooperative Art and Design」(2014年)などで幅広く紹介されている。オーストラリアのメルボルンを拠点とし、スタジオ活動のほか、RMIT大学でアートとデザインの授業も行っている。