VR(Type design)
このタイプフェイスは石や粘土板に刻まれた古代の文字と、未来のコンピューター端末や回路基板との間のスタイルにおける組合せである。学士号卒業論文の見出しのためにデザインしたが、最終的に大学での追加プロジェクトとして全体のタイプフェイスとなった。
このタイプフェイスは私の論文における考えを伝達することを意図する。それは、石器時代から人間が徐々に世界を形成していき、たとえば、分、センチメータ、ドルのように、現実を仮想装置に概念化し、これらの概念の積み重ねの上に我々の世界を形成しているという議論である。今や我々は都市という人工的環境に住み、人工的食物を食べ、貨幣、国、政治的イデオロギーのような人工的アイデア‐「仮想現実」を受け入れる。しかしそれらは自然の物ではない。我々誰もがこれらの「仮想現実」に従い生活する世の中に生きている。それゆえ我々デザイナーが作る物はこの「仮想現実」を維持しその上に拡大していく方向に偏る。我々の世界は現実的で客観的なものから遠のいていき、想像の物語の世界へと入っていく。
このタイプフェイスのビジュアル・スタイルは、これらの想像の物語と、全ての存在がプログラミングされ幻影であるコンピューターの仮想現実の環境との比較を照合する。我々は仮想現実の世界では外の世界の感覚を持てないし、持てる自由はコンピュータ・コードによって制限される。石に刻まれた言葉は現実を変えることのできる神のような力を持つという古代の信仰は、単にターミナルに適切な言葉を書くことでソフトウェアの中の現実を変えることができる事実とリンクする。私にとってこれは類似する神のような力を持つものである。
哲学者アラン・ワッツ、マーティン・ハイデッガー、ジャン・ポール・サルトル、そしてアダム・カーチス監督のフィルム『ハイパー・ノーマライゼーション』、ゴッドフリー・レッジョ監督『コヤニスカッツィ/平衡を失った世界』、ユバル・ノア・ハラリ著『サピエンス』などから私は思想概念的刺激を受けた。