PIGEON D’OR(2011)(Project)
この作品は、鳩の糞から石鹸を作ることを目的とする、さまざまな規模の一連の介入で構成されている。
最初の介入は、微小規模である。私たちは、生化学者James Chappellの助けを得て、合成生物学を用い、鳩の代謝を変えることのできるバクテリアを作り出した。これを達成するために、私たちはバクテリアの遺伝情報に加えるとリパーゼを作り出す新しいバイオブリック(標準生物学的パーツ)を作った。また、ph値を下げるバイオブリックも使用した。その結果として出来上がったのが、一種の窓用石鹸を生産する生物学的装置である。私たちはこれを、消化管にもともと存在する乳酸菌を使って作り出した。このバクテリアを鳩に与えると、鳩の糞は生物学的石鹸になる。私たちが作ったバイオブリックは、標準生物学的パーツ登録所(Standard Registry of Biological Parts)で自由に閲覧できる。(中略)
映像に記録されたように、これらの微視的介入は、巨視的介入と織り合わされる。鳩の飼育家の大半は、鳩レースのために数百羽もの鳩を飼う中年男性だが、このような人々は年々減少している。彼らが習得する、言葉に表されない知識や方法の多くは、科学とはみなされず、新しいバイオテクノロジーがもたらし得るDIY式美学と再認識されるかもしれない。
微視的規模と巨視的規模の両方での相互作用と知識の移転からインスピレーションを得て、一連の創作物が出来上がった。最初の創作物は、鳩と駐車中の自動車とのインターフェースであり、生産された石鹸がフロントガラス上に落ちる仕組みになっている。
2番目の創作物は、鳩が家や建築物の一部となる仕掛けである。この鳩小屋を窓枠に取り付けることで、鳩に餌をやり、鳩を分離・選別し、別の出口から外に出るよう誘導することができる。特注の都市除菌装置としても役立つ。
現在は、欧州規制があるために、私たちが作ったバクテリアを試験場の外で鳩に試すことはできない。しかし、バイオブリックを標準生物学的パーツ登録所に加えることによって、誰でもデザインを閲覧し、このバクテリアを作ることができる。合成生物学の未来において、これはレゴで遊ぶのと同じくらい容易なことになるだろう。というわけで、このバクテリアはともかくも世界に解き放たれたと私は信じたい。さらに重要なこととして、この作品は、大いに必要とされる美的・概念的多様性を道具箱に加え、いずれは人工生命の開発に利用されると信じたい。
法規制以外に、政治的・倫理的・観念的考察も影響する。この作品の目的は、このグレーゾーンに接近することである。その意味でも、鳩は強力なメッセンジャーである。
実際、野生の鳩は、都市部のバイオテクノロジーにとって、理想的なプラットフォームであると同時に理想的なインターフェースである。一方では、鳩は多くの人から有毒生物か空飛ぶネズミのように思われているが、他方では、実際のところ、鳩はすでにバイオテクノロジーの産物だと主張することもできる。というのも鳩は、速く飛び、見た目が良く、手紙を運び、スパイや宙返りをし、レースに参加できるよう、何世代もかけて交配・繁殖されてきたからだ。
もしかすると私たちが知っている鳩は、これまでも人工的な生命体だったのではないだろうか?