TAKEO DESK DIARY 2006 Vol.48(Diary)
AからZまでの26文字を、自分が好きだとか、美しいと思えるとかいった基準だけで書体を選び出して、1文字ずつを自分の手でトレースして描き上げていった。文字の学者でもその道の大家でもなく、そのときどきの都合にあわせて好き勝手に文字を扱ってきた現場の一デザイナーに過ぎない自分が、「欧文書体」という与えられたテーマに対して何かしら手応えのあるものを作れるとしたら、こんな体当たりの方法以外にはないと考えた。デザイナーとしての自分が文字を扱い続けてきたのは、文字に対して、意味伝達の記号ということを超えて、魔法のような魅力を感じているからだとも言える。慣れない烏口や筆を使って文字を描き起こす作業は、実際にやってみると、文字の魔法を少しでも手繰り寄せるいちばん有効な方法のように思えた。これらの書体を生み出した作者たちが辿ったであろう膨大な軌跡から見れば、そのほんのわずかな一瞬をなぞったに過ぎないにせよ。